役者の理解しておかなければならないこと。
観察するという行為によって、観察される対象が変化してしまうということなのです。
「不確定性原理」
この「不確定性原理」を意識して演技を向上させていくこともひとつの技法なのです。

たとえば。空き部屋はいったん誰かが入れば、もう同じ空き部屋ではなくなるのです。変わらなかったことにして、ものごとを進めることはできないのです。これは当たり前のことのように思えるかもしれないが理論としてではなく、実際のこととして理解しなければならないのです。

「状況は存在と観察だけで変わっていくのです」
たとえば。空舞台に役者が登場すれば、もう同じ空舞台ではないのです。さらに役者が登場すると前の同じ舞台ではなくなるのです。正しく、状況は存在と観察で変わっていくのです。
これは当たり前のことだけれど、それを気づくことなく進められていくのが現実であるのです。
前のシーンぼ状況を変えていくのが登場する役者の存在と、それを観察するお客様だけで変えていくのです。それが演劇(芝居)なのです。なので、台本に書かれている登場退場という簡単な行動ではないのです。これを理論的に理解するのではなく、実際のこととして理解しておかなければならないのです。

私たちは自分が見たいと思うもの、つまり自分の脳が見ると決めたものを信じ、事実ではなくその考えを脳に伝え、自分は客観的な事実を見たいと思い込むが、実際に私たちに見えるのは、その時の「限られた知覚」だけなのです。
役者の稽古で、その「限られた知覚」に意識して善い刺激を与えていくことが大きな課題であり、それは、お客様にも言えることであり、役者が、その「限られた知覚」に、どれだけの、どんな、強弱の刺激をお客様に与えられるのかが大きな課題なのです。

しかし、役者は、自分がある状況について、全体的な見方をしているつもりでも、大きく脱線してしまうこともあると理解しておく必要があるのです。